百聞は一見にしかずか?『卵のひみつ』:日本の科学読み物について①

ゆとり教育時代に全盛だった「調べ学習」ですが、趣旨は悪くないと思いつつ、子どもたちは、手っ取り早く、答えが載っている本を図書館に探しにくる場合が非常に多かったことは、図書館員の方はご経験があると思います。教科書対応の知識の本が次々でまして、確かに需要はあるし、と選書に混乱する面があります。特に、図書館員って、文系が多いから、科学読み物の検証が弱くなるとこもあります。というわけで、今回、科学読み物をテーマにした展示に取り組むことで、このあたりを見直そうと思いました。
『卵のひみつ』内田清之介著 国土社1979
ですが、この本は、1950(S25)6月に光文社初版の作品を再録したものです。読んでいて、ふとこれは、テレビ普及前の作品だなぁ、とつくづく思いました。たとえば「南極にいるペンギンは、からだが直立して、遠くから見ると、まるで人間があるいているようなおもしろい鳥ですが」(同書P.54)などと書いてあります。読者がペンギンを見たことがないことを前提に書いているんですね。他にも、こうした感じの描写はおおいのですが、読んでいて、今の感覚では、かったるいといえないこともないけど、未知のことを子どもに、楽しく、わかりやすく伝えたい、という著者の思いが伝わってきます。テレビの動物番組を見て、知った気分になっていたのけど、本当は知らないことが多いなぁ、と思えてきたのです。
文字の描写は、論理です。文字から、自分の頭にイメージを創るという作業を経た後に、実際の物を知った方が、インパクトがある気がしまた。ちなみに、私は、鳥の卵が、胎内で形成される様子を、この本で、初めて知りました。やっぱり生命は神秘です!